「痛くないわけではない」無痛分娩ってどんなもの?

出産ってどれくらい痛いの?

赤ちゃんを産むのって、どれくらい痛いのでしょうか。

よく聞くのが

“鼻からスイカを出すくらい"

小さなところから大きなものを出す…ということですね。赤ちゃんの頭は平均で、縦12.5 横10センチ。対して、産道は縦11.3 横12.2センチ。通るのがギリギリ。痛いのも納得です。

ある経産婦の方は、こう言います。

"今までの人生で経験したことがないほどの激痛"

わかりやすい。感覚に迫ってきますね。

「そんなに痛いの? 」残念ながら、事実のようです(もちろん個人差はありますが)。

痛みの指標としてよく用いられる「マギル疼痛スコア」(the McGill Pain Questonnaire/MPQ)があります。痛みを、他の痛みとの比較で表現したものです。これによると、初産の痛みは

「手指の切断に近い痛み」

だそう。指を切断したことのある方は、そう多くはないでしょう。なので、「経験したことのない激痛」という表現はあたっているのではないでしょうか。

できれば、こんな痛みは避けたい。そこで、「無痛分娩」なのですが……「本当に痛く無いの?」

無痛分娩って本当に痛くないの?

残念ながら、全く痛くない、というわけではありません。少し痛い。けれど、痛みをかなり減らすことができる。痛みを制御できる。それが無痛分娩です。

なぜ、完全に痛みを無くせないのか。それは、最初の一回で、大量の麻酔を注射するのではなく、出産の状況に応じて「複数回」「少しずつ」麻酔を入れるからです。

これは、より安全に出産するための措置です。複数回に分けることにより、長い出産時間でも、麻酔が切れることが無い。少しずつ入れることにより、妊婦さんに異常があっても、すぐ対応することができる。医療事故を減らせるのです。

「複数回入れるって、何回も注射するの?」

いえ、そうではありません。出産前に、背中にカテーテル(管)を導入しておき、ここから、出産の進行にあわせ麻酔を注入します。

「でも、そのカテーテルがなんだか痛そう」

……そうなんですよね。多くの妊婦さんが、不安になるのがここです。厳密には、カテーテルを導入する前の麻酔注射が、「少し」痛いです(カテーテル導入時は麻酔が効いているため、痛くありません)。

注射するのは背中。背中の注射って、あまり経験することないですよね。だから、不安や恐怖を覚える。少しの痛みでも、強く感じてしまうんです。

でも、この痛みは、弱めることができます。ポイントは「姿勢」です。

麻酔注射の痛みを防ぐには?

「背中を丸めること」

ポイントはこれだけです。

注射するのは、背骨と背骨の隙間です。背中がちゃんと丸まると、背骨の隙間が大きくなる。注射針が入りやすくなる。結果、痛みが減り、注射にかかる時間も短くなるんです。

注射にかかる時間はおよそ3分。いわば「痛みをなくすための痛み」の時間です。背中を丸めて、この時間を少しでも短くしましょう。ここを乗り切れば、後はほとんど痛みません。

(背中の丸め方は、金子レディースクリニックのYouTube「第2回 無痛分娩 その2・沐浴の仕方について」で詳しく解説しています。ぜひ、ご覧になってください)

痛みに不安や恐怖心があったら検討を

出産の痛みと、痛みをやわらげる「無痛分娩」について述べてきました。

日本では、無痛分娩は、やや特殊な状況にあります。海外に比べ、無痛分娩を選ぶ人が極端に少ないんです。無痛分娩の比率は、アメリカが73%、フランスが82%。一方、日本は、わずか6%の妊婦さんしか無痛分娩を選んでいません。

この背景には、「赤ちゃんはお腹を痛めて産むもの」といった考え方や、「無痛分娩にはリスクがあるのでは?」といった安全性への不安があります。

リスクについては、厚生労働省研究班が見解を示しています。

無痛分娩「リスク差ない」厚労省研究班が見解示す|日本経済新聞 2018年3月4日

安全性への理解が深まれば、今後日本での無痛分娩は大幅に増加するでしょう。

痛みが少ない。産後の回復も早い。妊婦さんの負担がとても軽くなる無痛分娩。ぜひ検討なさってください。