開業への道のり 11

 

成育医療センターでの新生児医療の様子です。

成育では新生児科専門のスタッフが7~8人、そのほかに

私のような産婦人科医や一般小児科医、初期研修を終えた

ばかりの後期研修医などが7~8人います。

 

スタッフクラスと研修中の医者が組になって指導を受けながら

日々の医療を行っています。また当直も必ず2人は泊まって

そのほかに2人が自宅待機になっており、とても手厚い体制に

です。

 

今までは成熟した赤ちゃんしか診たことがなく、未熟な赤ちゃん

はすぐに新生児科医にバトンタッチしていたので、とてつもなく

小さな赤ちゃんには触るのも恐る恐るでした。手のひらに収まり

そうなくらいの赤ちゃんに、点滴をいれ人工呼吸器をつけ、、、

 

すべての処置が繊細、使う薬剤も少しでも量を間違えれば命取り。

久々に感じるストレスでやや自信も喪失気味。そんな中スタッフ

たちは根気よくかつやさしく指導してくれました。

 

直接のオーベン(指導医)はシゲ先生。経験15年、脂の乗り切って

いるバリバリの新生児科医。新生児医療は医療機器の進歩とともに

日進月歩。その進歩についていけなければいくら経験があっても

遅れをとってしまいます。なので日々新しい論文を読んで研究を

怠りません。

 

さらに感銘を受けたのは

「指導するのは当たり前」

という感覚。どこの世界でもそうでしょうが、自分ができるようになると

自分ができなかった時代のことを忘れたのか、後進の指導など面倒、

という輩がいます。医者の世界でもきちんとした指導体制ができてない

ことも多く、技は盗め、理論jは自分で勉強しろ、ということが多いのです。

 

もちろんそれも正しいのですが、人の命を預かる職業、基礎を教え込む

ことは重要です。

 

さらに

「絶対依頼は断るな、ウチが最後の砦だ」

という強い責任感には感動しました。

ある日、近所の産婦人科医院から連絡がありました。生まれた赤ちゃんが

具合が悪いので診てほしい、というのです。

 

シゲ先生 「よし、行こう」

ワタシ 「はい、でもウチは満床では?」

シゲ先生 「そうなんだけど、いいんだ、とりあえず行くしかない」

そう言って赤ちゃんを迎えに行きました。幸いそれほど具合が悪く

なかったので一般の新生児室に入院させることができました。

 

ワタシ 「もし具合が悪かったらどうしてました?」

シゲ先生 「引き受け先を探すしかないよ、でもほうっておくのは

       できないでしょ。」

こんな具合に常に献身的に真摯に医療に向き合っていました。

それはシゲ先生に限ったことではなくスタッフの先生みんなに

共通するものでした。

 

医療の原点ともいえる責任感、研究心、奉仕の精神などに触れ

日々の忙しさに忘れかけていたものを思い出しました。新生児の

取り扱いなど技術的なことはもちろん、こうした気持ちを持ち直した

ことが、成育での一番の成果でした。