医療方針を決めるとき、私はその人にとって何が一番大事か、
ということを考えているつもりです。
病気だけを見て、人間を見なくなってはいけない、
というのが医学部に入った時に最初に教えられたことでも
ありました。
ある人がある病気を持っていた場合、病気のことだけを
考えた場合の治療法と、その人にとって最善の治療法は
違ってくる場合は往々にしてあります。
以前にも書いたことがありますが、
たとえば、がんの場合。
これは病気のことだけを考えた治療法と、その人にとっての
最善の治療法はほとんど一致します。
がんを治すことがなによりその人にとって一番大事なことで
ある可能性が高いからです。
だから病気のことだけを考えればいいので、ほぼ画一的な
対応でよくなります。
でも妊娠の場合、とても難しい。
たとえば、初期の出血。
妊娠2ヶ月、3ヶ月で出血することはたびたびあります。
妊娠経過に全く問題がない場合もあれば、そのまま
流産に至ってしまう場合もあります。
切迫流産という立派な病名はつきます。
ですが、治療法はありません。
一応安静がいいのでしょうけれど、安静にしたから
といって流産しないわけでもなく、動いたからといって
流産する確率があがるわけでもありません。
ただ、出血をした妊婦さんはとても心配になりますから、
安静にするという意味で入院することもあります。
でも、一度出血すると2-3週間はなかなかおさまらない
ことも多いのです。
するととくにその人にほかにお子さんがいるような場合、
本当に2週間も入院してもらう意味があるのかどうか?
入院すれば絶対に助かる、入院しなければ必ず流産する、
というのであれば入院すべきでしょう。
ですが、実際には入院の効果は精神的なものだけ。
むしろお子さんと離れ離れになったりすることのほうが
マイナスではないか、と思うわけです。
でも人によっては、入院させてくれなかった、不親切だ、
と考える場合もあります。
人それぞれで感じ方が違うので、そのように対応できれば
いいのでしょうけれど、いろんなケースでこのようなことが
考えられます。
なかなか短い時間でそれぞれの人の感じ方を読み取るのは
大変。まだまだそこまでの技量はないようです。
まだまだ精進、精進。