医療: 2011年9月アーカイブ
医療方針を決めるとき、私はその人にとって何が一番大事か、
ということを考えているつもりです。
病気だけを見て、人間を見なくなってはいけない、
というのが医学部に入った時に最初に教えられたことでも
ありました。
ある人がある病気を持っていた場合、病気のことだけを
考えた場合の治療法と、その人にとって最善の治療法は
違ってくる場合は往々にしてあります。
以前にも書いたことがありますが、
たとえば、がんの場合。
これは病気のことだけを考えた治療法と、その人にとっての
最善の治療法はほとんど一致します。
がんを治すことがなによりその人にとって一番大事なことで
ある可能性が高いからです。
だから病気のことだけを考えればいいので、ほぼ画一的な
対応でよくなります。
でも妊娠の場合、とても難しい。
たとえば、初期の出血。
妊娠2ヶ月、3ヶ月で出血することはたびたびあります。
妊娠経過に全く問題がない場合もあれば、そのまま
流産に至ってしまう場合もあります。
切迫流産という立派な病名はつきます。
ですが、治療法はありません。
一応安静がいいのでしょうけれど、安静にしたから
といって流産しないわけでもなく、動いたからといって
流産する確率があがるわけでもありません。
ただ、出血をした妊婦さんはとても心配になりますから、
安静にするという意味で入院することもあります。
でも、一度出血すると2-3週間はなかなかおさまらない
ことも多いのです。
するととくにその人にほかにお子さんがいるような場合、
本当に2週間も入院してもらう意味があるのかどうか?
入院すれば絶対に助かる、入院しなければ必ず流産する、
というのであれば入院すべきでしょう。
ですが、実際には入院の効果は精神的なものだけ。
むしろお子さんと離れ離れになったりすることのほうが
マイナスではないか、と思うわけです。
でも人によっては、入院させてくれなかった、不親切だ、
と考える場合もあります。
人それぞれで感じ方が違うので、そのように対応できれば
いいのでしょうけれど、いろんなケースでこのようなことが
考えられます。
なかなか短い時間でそれぞれの人の感じ方を読み取るのは
大変。まだまだそこまでの技量はないようです。
まだまだ精進、精進。
昨日はなんだか出血の多い日でした。。。
原因に予想がつくものもありますが、予想がつかないものがほとんど。
お産は本当に救急医療です。
その場になってみないと出血するのかしないのか、赤ちゃんが元気なのか
そうでないのか、よくわかりません。
今日は輸血まで準備しましたが、結局はだんだん落ち着いてきたので
輸血は使わずじまい。少し無駄にはなるけれど、本当によかった。。。
それにしても産婦さんは本当によくがんばります。
誤解が出るのを承知で書きますが、
よく、手術を受けた方に
「よくがんばりましたね」
という声かけをします。でも実際には全身麻酔で無意識なので、体力が
がんばってくれたのであって、気力ががんばったわけではありません。
それだって十分がんばっているんですけどね。
でも産婦さんは意識があって目の前で、出血がどばっと出たり、
赤ちゃんの具合が悪くなったり、それを受け止める気力が必要
なんです。その気力プラス体力もすべての力を振り絞って
がんばらなければなりません。
母は強い、なんて簡単な言葉で言ったら失礼ですが、ほかにあまり
いい言葉も浮かびません。
昨日も産婦さんたちの頑張りで、ワタシが助けられました。
本当に頭が下がります。。
ありがとうございました。
命をかけてお産に臨む産婦さんたちに負けないように、ワタシも
スタッフも命(医師生命、助産師生命、看護師生命)をかけて
お産に臨むようにしなければ、との思いを再確認した1日でした。