医療: 2008年11月アーカイブ

 

今日はトーヨーキッチンでキッチン選び。自宅用ですけどね。

ショールームに行くとオシャレなのがたくさん並んでてテンション

上がります。

 

さて、続きです。

個人開業医で医師一人当たり約400件の分娩を余裕をもって

こなすなら、それをサポートする体制が必要です。それはすなわち

助産師、看護師です。

 

助産師がたくさんいれば、正常のお産は全く任せて問題ないので

ずいぶんと楽になります。しかし、産婦人科医が不足している、

といわれる前から、業界では助産師が少ないのが問題でした。

 

それなのに助産師も増やそうとしません。助産師学校は看護師

免許を持っていないと入れないし、4年制の大学でも選抜された

人しか助産師コースに入れません。その倍率はかなり高いのです。

つまり、助産師になりたい人はたくさんいるのに、それを教育する

場がないので助産師が増えないのです。

 

そのために、5年ほど前までは個人開業医では看護師や准看護師

が分娩経過を見て医師に報告して、ということをやっていました。

経過を見ていく中には当然内診も含まれていました。内診とは子宮の

開き具合を見るもので、それによってお産がどれくらい進んでいるか、

今後どのように進むかの判断の材料になります。

 

それが平成16年に、厚生労働省から内診は助産業務に含まれるとの

通達が出されました。事実上、看護師は内診をしてはいけないとの

通達です。保健師助産師看護師法という法律では助産業務の定義が

曖昧なままなので、長年内診が助産業務かどうかはグレーゾーンの

まま運用されていました。

 

それを内診が助産業務であるとの通達を出し、そのうえ平成18年には

神奈川の産科病院で看護師が分娩経過を見ていた妊婦さんが、

出産後出血多量で亡くなった事例があり、出血多量と看護師の内診

は全く関係なかったにも関わらず、看護師の内診が問題であると大きく

取り上げられました。

 

その後はどこでも看護師が内診できずに分娩経過を見ることができず、

個人開業をやめる医師が増えました。

 

助産師を大幅に増やすような計画はなく、看護師に分娩経過を見ること

も許さない。これが産科を扱う医師に負担をますますかけています。

 

ワタシも体力的に問題のないうちは続けられますが、今の体制が今後も

続くとするとやめる時は2日連続で起きていられなくなったときでしょうか。

 

看護師には内診を認めないのに、助産師には会陰切開や縫合という

明らかな医療行為を認めようという動きもあるようです。意味がわかり

ません。

 

産婦人科医を増やすように努力するのは当然ですが、それはどうやっても

すぐには無理。でも今すぐにできることはたくさんあるのです。なぜそれが

実現しないのか、国が本当に産科医療のことを考えているとは思えません。

 

 

ここでもともと書こうと思っていたことは、パート1に対する

tugさんのコメントに集約されているので省略。

 

ということでパート3に書こうと思っていたことを書きます。

それは手前みそですが、個人開業の重要性です。

 

資金的なことはクリアされたとして、つまり周産期センター

でハイリスクばかりを扱ったとしてでは普通の分娩はどう

するか。

 

現在、大雑把に見て分娩を扱っている医者が7000人くらい。

1年間の出産数が100万ちょっと。単純に割ると一人当たり

年間150件の分娩を担当する計算になります。

 

ところが、個人開業では一人当たり300から400件程度の

分娩を扱えます。

一般に7割程度の分娩がリスクの低い、いわゆる普通のお産

だとすれば、70万を350で割ると2000人でいいのです。

 

とすると、残りの5000人でハイリスクの30万を担当すれば、

十分に受け入れは可能。とすれば、一人当たり年間60件。

ハイリスクですので一つの分娩に二人ずつかかっても年間

120件。これなら、婦人科の手術をしていようとも、十分に

余裕をもって対応できます。

 

現在は診療所と病院とでは出産数はほぼ同数。これを7対3に

持っていけば産婦人科医の数が増えなくても十分に対応でき

ます。

 

そして、開業クリニックで医師一人が350件の分娩を扱うには

もうひとつ重要なファクターがあります。

 

それは、看護師の内診です。

 

 

二階経済産業大臣の発言です。

http://jp.youtube.com/watch?v=jgqbb0IM9SQ

 

「産婦人科"たらい回し"は医者のモラルが足りないから」

だそうです。

 

リアルタイムで見ていましたがちょっと衝撃でした。

 

結構反発ありそうですけど。

さっそく抗議声明を出した団体もあるそうです。

産婦人科業界こそ早く反応したほうがいいですよね。

 

 

開業に向けての準備が忙しくなってきて、通常の診療を縮小しようと

思っているのですが、こういう時に限ってよその診療科からの依頼が

増えて、なかなか時間がとれません。

 

それはそうと、このところどの時間帯のニュースでも医師不足問題が

流れない日はありません。特に最近妊婦さんの事例が続いたので、

産婦人科がクローズアップされています。

 

この影響で周産期センターに妊婦さんが集まってきているようです。

急に具合が悪くなったとき、"たらい回し"にされるならはじめから

センター病院に行っておこう、ということのようです。

 

予想されたことではありますが、ますます悪い流れに入ってしまいます。

 

私の持論ですが、周産期センターを機能させるためには、その

センターはヒマでないといけないのです。普段はヒマでなければ、

いざという時に動けるはずもありません。

 

周産期センターであるはずなのに産科医が常にフルに働かなくては

いけないほど、普通の分娩を取り扱っているから、他の病院から

搬送を受けるべき時に受けられないのです。

 

もちろん新生児の問題もあってそれだけでは解決しない問題も

ありますが、少なくとも今回東京で続いた2件と奈良で起こった

脳出血の件は、赤ちゃんには問題なかったものです。

 

ですから、周産期センターには紹介でなければ受診できない

ようなシステムにするべきなのです。

地域の病院やクリニックで、これは手に負えない、という判断が

あってからようやく周産期センターに行く、そういう順序にしないと

ますますいざという時の"たらい回し"がひどくなるばかりです。

 

ただ、これには医療側にも大きな問題があるのです。

 

 

今日も産婦人科学会、若手企画の会合がありました。

ワタシのような年代が若手に入るのか中堅に入るのか

今日もちょっと揉めましたが、それは枝葉。

 

経歴10年くらいの産婦人科医が自分の将来像を描けて

いないことが意外と多いのです。それが若い産婦人科医が

増えない要因のような気がしてなりません。

 

我々の年代の医者が夢をはっきり描けなければ、それを

学生などに伝えることなどできません。

 

具体的には医師の進む道として、大学の教員、研究員、

市中病院の勤務医、それと開業医の3つに大きくは分けら

れます。

 

それぞれに役割があって、開業医を選んだ私も、実は

勤務医に未練がないわけでもありません。勤務医でないと

できないこともたくさんありますし、また教育に携わることにも

興味はあります。

 

でも、年代的にはそろそろ自分の進むべき道を選んでそれに

むかって準備をしなければなりません。私の場合は、地域

医療が大切である、患者さんと常に接していたい、という思い

が強かったので開業を選びましたが、なかなか決めかねている

同僚も多いわけです。

 

それぞれに夢があって決めかねているのならともかく、どれにも

夢を持てなくて決めかねているのが問題です。

 

夢の持てる業界にならないといけません。

学会の若手企画がそれを促していけるよう頑張っていきたいと

思っています。

 

 

またもや妊婦さんの脳出血の話題がありました。

わが調布で起こったこと。それほど頻繁にあるわけではないはず

ですけど、都内で続いたのでちょっと心配。

ただ、相変わらず、病院の受け入れ拒否、ということばかりに焦点

が当てられているのは残念です。

 

そのことについては書きはじめるときりがないので、ちょっと話を

そらして。

 

患者さんと医療側でトラブルの原因になるのは、医療に対して意識

のずれがあることがほとんどです。今回の報道にもそのずれが大きく

感じられます。

 

ところで、

「自分はこんなに体の不都合を感じている、だから全部治してください」

と言ってこられる患者さんがいます。それほど多くはありませんけど、

医療はそんなに完璧ではありません。

というより体は結局自分の力で治るのであって、われわれ医師はその

お手伝いをするだけ。できることとできないことがあります。

 

でも、自分の状態がすぐにぴしっと治らない、とわかると急に不機嫌に

なってしまうのです。こちらの説明の仕方が悪いのかもしれませんが、

正確な診断をして、正確な情報を伝える、あるいは正確な診断はできない

と正直に伝える、それしかやりようがないのです。

 

ですが、それ以上のものを求めている人には不十分。

それで医療不信、といわれることもあり、こちらからすると認識の差、

以上のものではないのですが、残念です。

 

「そんなの、勘違いしている患者さんが悪い」

と割り切れる医師もいますが、私はどうしてもひっかかってしまいます。

そのギャップをどうしても埋めたいと思っています。ですので、患者さんと

向き合って話し合うために地域医療に向かっていきたい、と思うのです。

 

こうしたずれを解消できるのはいつの日かわかりませんが、少しでも

いい関係を持てるようになりたい、と願っています。それが医療者側の

やりがいでもあるのですから。

 

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